「原爆の父」として知られたロバート・オッペンハイマーを主人公にした作品。
終戦の日の夜にロスアラモスで一人の男が殺された。責任者のオッペンハイマーが友人であるラビに犯人を探してくれと頼んだ。ところがミステリーというより、むしろ作者はラビの目を通し、原爆の開発と実行がもたらす人間性の喪失および残酷さを描き出そうとするのではないかと。この世界は原爆を境にして永久に変わった。ヒロシマの原爆ドームに行った時に、あまりにも生々しい展示ものから目を逸らしたくなったことは何回もあった。『新世界』を読むときに、また当時の気持ちを思い出した。最後の謎を解けた瞬間、何の爽快感もなく、その代りに人間の罪や浅さ、残酷についていろいろな重い思いを巡らせた。深く考えさせてくれて素晴らしい一作。